「ちょっと待った」


小さいけどはっきりと聞こえた。

その声は遥斗くんのもので。

視線の先には、何やら息の上がった彼がいる。


どうしたんだろう?

という疑問と同時に、昨日のことを思い出した。

胸が早鐘を打って、背中には冷や汗がツーと伝う。

遥斗くんから目を逸らせずに固まる。

だけど、それは彼も同じで、こちらを向いたまま動く気配がない。


「なんかイケメン来たから行くわ」


沈黙を破ったのは意外にも隼人だった。


「え?いや、あの…」


隼人の声に遥斗くんはうろたえる。

私は騒がしい心臓を必死に落ち着かせようと、小さく深呼吸をした。

どんな言葉を言えば良いか分からずに、口は閉じたまま。


「み、水瀬くん…?」


遥斗くんの口が小さく動く。

スタスタと歩き出した隼人は、遥斗くんの横で一度立ち止まった。