そんなに悲しげな顔をしないで欲しい、俺はそういう顔を君にさせたいわけじゃない。

「新郎とは何もかかわりがないんだけどね、なんと新婦の友人だったみたい。流石にびっくりしたよ」
「すごい、偶然ですね」
「それで俺、気づいたんだけど」

 俺はそこで言葉を切って皿に乗ったスモークサーモンを箸で持ち上げて、ちらりと穂香ちゃんを見て、ちょっと吹き出しそうになった。そんなに不安そうな顔で見ないでほしい。

「なんか全然、好きじゃなかった」
「へ?」

 彼女は眉間にしわを寄せて、顔いっぱいで混乱を表現している。

「ずっと好きだと思ってたんだ。七年会っていなくても、この気持ちは本物だって思ってた」
「私も聞いていて、そう思いましたよ?」
「でも会ったら違ったんだ。何も感じなかった」
「どうして……」
「本当に、思い出に恋していたんだろうね」

 口に出すことで、本当の意味で瑠璃子さんへの恋が終わったことを感じた。しかし大きく息を吐きだしてすっきりする俺とは対照的に、彼女はいつの間にかぼろぼろと大粒の涙をこぼしていた。

「え、なんで。泣かないでよ」

 ギョッとして、慌ててハンカチを差し出したが、当然彼女の涙は止まらない。はらりと静かに流れ落ちるそれは、とても綺麗で優しいものに見える。

「本当に、もう終わったんですか?」
「うん、終わったよ」
「じゃあ……私まだ、雅俊さんのこと諦めなくてもいいですか」

 ……そういう、ことか。彼女がとてもいじらしくて、可愛く見えて僕は少し困ってしまった。

「俺ねえ、実は結婚式の最中から、穂香ちゃんに会いたくて仕方なかったんだ」
「それって」
「正直、俺相当自分の気持ちに鈍いみたいだから、まだ何も確証ないんだけど。とりあえず、諦めないでもらえると嬉しいかなって」

 彼女は俺のハンカチを握りしめながら、何度も強く頷いた。

「さて、と。何かカクテル貰おうかな。おすすめありますか?」
「そうですねえ、ライジングサン・サンとかどうです?今の潮田さんにぴったり」
「俺に?」
「そう、あなたに」

 店主の言葉に、僕は思わず声を出して笑った。隣の彼女が不思議そうにこちらを見ている。

「どうします?」
「もらいます」