彼女が俺に想いを寄せてくれていることは、少し前から気づいていた。好きな人ができた、と言っていたけれど、それが自分のことだと気づくのに、そう時間はかからなかった。どこをどう見て好きになってくれたのか皆目検討もつかないけれど、彼女はまだ若くて可愛いのだから、できれば俺に貴重な時間を費やしていないで、もっと普通の、きちんと彼女を見てくれる男と恋愛をしてほしいと思っている。

 思ってはいるのだけれど、結婚式の最中視界の端に瑠璃子さんが映るたび、穂香ちゃんに会いたくて仕方なかった。瑠璃子さんを視界に入れることがあまりにも落ち着かなくて、穂香ちゃんの癒されたかったのかもしれない。だからか彼女を見ていると、自然と腹の中のもやもやが晴れていく気がした。

 大人ってずるいし現金だ。俺に好意を寄せてくれる彼女に安らぎを得て、心の安寧を保っている。まさに都合よく利用しているようなものだ。俺だって瑠璃子さんんのことを、何も言えやしないのかもしれない。

「お疲れさまでした。今日寒かったですよね。でも晴れてよかったですね」
「全部室内の式だったから中に入ってからは快適だったよ。でも確かに協会がガラス張りだったから、晴れていたおかげですごく綺麗だった」
「良いですよねえ結婚式。まあ私の周り今ラッシュで、ご祝儀貧乏なんですけど」
「穂香ちゃん二十八だっけ、そのくらいの時は俺も大変だった」

 ビールとウイスキーで乾杯して、顔を見合わせてお互い苦笑する。肩の力が抜けて、ほっとした気持ちになる。

「今日の式は、大学時代のお友達でしたっけ」
「そうだよ、同じ学部のやつでね。式に参列したのは六人だったけど、二次会にはもう少し来るって言ってたかな」
「行かなくて良かったんですか?」
「うん、ちょっと気疲れしちゃったね」
「もしかして……」

 彼女の表情と声が、少し曇る。不思議に思ってさきを促すと、少し思いつめたような表情で聞いてきた。

「二次会に、瑠璃子さんが来る予定だった、とか?」

 一瞬、俺の顔が曇ったのだろう。「ごめんなさい、余計なこと聞きましたね」と顔を伏せた。彼女は僕が瑠璃子さんを好きだからこそ会わないようにしていると思っている。昨日までは確かにそうだった。

「瑠璃子さんはねえ、何と結婚式に出席してました」
「えっ……」