つまり、今も昔も、彼女はそんな女性だったのに、俺がそこから目をそらして蓋をして記憶のかなたに押しやって、良い思い出ばかり抱えて生きてきたのか。今更そんなことに気がついたのか。

 どうにも腹の中がぐるぐると不快感で満たされていく気がして、ウエルカムドリンクのビールを一気に飲み干したところに大学の同期がやってきた。

「よー雅俊久しぶり。さっき一緒にいた人ってあれか、高嶺の花子さん」
「久しぶり。その呼び方やめろって、合ってるけど。新婦側の招待客だってさ」
「へー、偶然だなあ。どうよ、そっちも久々に会ったんだろ?もしかして、恋が復活しちゃったりして?」
「ねーよ」
「なんだないのかー。雅俊まだ独身だろう?一部じゃまだあの人のことが忘れられないんじゃないかって噂になってたぜ」

 それは噂ではなく事実だし、恋の復活がないことは先ほど気づいたことだけれど、余計なことは言わないでおく。

「久々に会えたらやっぱり嬉しいもん?俺は元カノとかなるべく会いたくないけど」
「俺も……会いたくなかったかな」

 そう、会いたくなかった。気付きたくなかったのだ、この恋がとっくに終わっていることも、彼女自身ではなく、彼女との思い出に恋していた自分にも。

 二次会の誘いを断って、俺はいつものダイニングバーにやってきた。店主に顔色が悪いと心配されたけれど、気にしないでくれと言ってウイスキーのロックを注文した。土曜日だからテーブル席は埋まっているけれど、カウンターには俺一人。けれどいつも通りならば、もう少し時間が遅くなればここに女性が一人、座るはずだ。

「あ、れえ。なんで雅俊さんいるんですか?お友達の結婚式は?」
「無事終わったよ、そこ、引き出物が置いてあるからどけるね」

 二杯目のウイスキーに口を付けたところで、穂香ちゃんがやってきた。最近店でよく会う六つ下の女の子だ。俺の拗らせた恋の思い出話を真剣に聞いてくれる、奇特な人でもある。彼女は俺の隣に座ると、予期せぬ遭遇に喜びが隠せないといった様子で、機嫌よくビールと生ハム、ピクルスを注文する。