彼女は今も美しい。子供を二人産んだと聞いていたけれど、結婚前と変わらない体型を維持しているところも、童顔ながらも相応に歳を重ねて深みの出た顔つきも、何もかも全部。もしも今の俺が彼女に会えたら何を思うのだろうか、どんな気持ちになるのだろうか、この七年間何度も想像した。

 以前にも増して募ったこの気持ちが限界を超えて、どうにかなってしまうのではないかとも思っていた。けれどいざ彼女を目の前にした俺は、何も思わなかった。何も感じなかった。あんなに恋焦がれていたはずなのに、動揺することも、緊張することも、それどころか切なさに胸が押し潰されるような感情に襲われることも、なかった。

 つい昨日まで、人を好きになることがこんなにも苦しくて、不幸せとともにあることに対して、絶望にも似た愛しさを感じていたはずなのに。

 気づいてしまえばどうということはない、俺の恋は七年前に彼女が結婚した瞬間、確かに終わっていたのだ。もしかしたらもっと前から。でなければ、少なくとも今俺の腕に絡みついて「せっかく久しぶりに会えたんだし、雅俊くんには私のエスコートをしてもらおうかな」という彼女に対して、戸惑いはしても不快に思う自分は、いないはずだ。

「くっつかないでください。スーツが皺になります」

 自分でも驚くほど冷たい声が出た。

「なによ、昔の雅俊くんはそんなこと言わなかったじゃない」
「昔と今は違います。瑠璃子さんだってもう独身じゃないでしょう」

 彼女は俺の言葉にあからさまに不機嫌になったけれど、元同僚と思わしき人たちに呼ばれ、愛想を振りまきながら去っていった。

 あんな人だっただろうが、俺の中にふと疑問がよぎる。結婚して夫がいてさらに子供が二人もいるというのに、その目がないところとはいえ、昔相手にもしなかった後輩の腕に絡みつくような、そんな女性だっただろうか。

 でもよくよく思い返せば、彼女に俺が片想いをしていた大学時代、彼女には他大学に彼氏がいた。それでも俺が諦められずにデートに誘えば、一緒に遊びに行くのも、飲みに行くのも了承してくれていたし、何度か寝たこともある。ただキスだけはさせてくれなくて、告白は必ず断られていた。

 若いころの俺はそれさえも魅力に感じていて、いわば中毒のように、彼女にのめりこんでいた。