「お友達には、どんな話をしていたんですか?」
「えっと、ジムで時々話をする人がいて、もうちょっと話してみたいとか、そんなことですよ」
「本当に、それだけ?」

 本当は恋愛につながるような関係になりたいとまで話をしていたけれど、全部言うわけにもいかず「なぜ?」問う。けれど次の彼の言葉で、私は自分の頬を叩きたくなった。

「このカクテルには、『私を射止めて』と言う意味があります。ご友人が言っていたのは、きっとそのことですね」

 彼は先ほどよりも私の傍に寄ってきて、耳元で囁いた。彼の低く落ち着いたその声と、大胆なカクテルの意味に、私は思わずたじろぐ。
「そ、え……わ、私そんなつもりじゃ」
「僕に恋愛的興味はありませんか?」
「いえ、あの……ないことは、ないです」
 後半はほぼしり切れとんぼだった。恥ずかしくて顔を伏せっていると、彼の優しい声が降ってくる。
「良かった、お友達としてだけだったらどうしようかと。けれど期待が持てるなら、射止められるように頑張らねば」
「からかわないでくださいよ」
「からかってませんよ、本気です。でもひとまずお友達として、よろしくお願いします」
「はい……」
 正直なところ、お友達の枠をとっくに飛び越えて射止められているし恋が始まっていたわけだけれど、彼の重たくない好意が心地よくて、それに甘えてしまった。
「……ちなみに、シェリーでも良いって言われたんですけど、それにはどんな意味が?」
 彼は今度、声を上げて笑った。
「ご友人はなかなか大胆だけれど意地悪なんですね」
「意地悪な意味なんですか」
「絶対に僕以外の男の前で飲まないでくださいね」
「はあ……?」
 シェリー酒の酒言葉をまたしても耳元で囁かれて、今度は足の先まで真っ赤に染まってゆでだこのような自分が出来上がった。友美には今度会ったら説教だ。
「あの、私本当にそんなつもりでは」
「大丈夫ですよ、今夜はホテルに行こうなんて言いません。ゆっくり、お互いのことを知っていきましょう」
「はい……」
 恥ずかしくて穴があったら入りたいのに、入る穴は当然ないし、いつの間にか絡められた指が優しいのにほどけそうになくて、羞恥心よりもときめきが勝ってしまう。