翌々日土曜日、案外と、彼はすんなり私の誘いに乗ってくれた。それはたまたま更衣室から出るタイミングが被って、そのまま退室カードを一緒に押して外に出たからなのだけれど、本当にまるで最初から決まっていたみたいに、自然な流れで食事に行くことになった。

「いやあ、誘ってもらえて嬉しいなあ。実は僕も一度ちゃんと話してみたいと思ってたんですよ」

 ニコニコしながら彼が言う、帰りが一緒になった時に、自分も誘おうと思っていたと。社交辞令かもしれないけれど、私はそれだけで嬉しい。

 二人ともジム終わりでシャワーを浴びた後だから比較的ラフな格好だし、気取る必要がなく、且つ周りを気にしなくていいように個室のあるチェーンの居酒屋に入った。大人のデートとしてどうなのよ、と友美の叱責がフルオートで脳内再生されるけれど、勿論気にしない。デートだなんて思ったら、緊張して楽しく会話ができないじゃない。

 実際、肩の力を抜いて挑めたおかげか彼との食事は楽しかった。ランニングマシンの隣同士で話す時に感じた心地よさはやはり間違いではなかったし、対面にいる彼の表情や仕草は今まで見ることの叶わなかったものだけに、私をときめかせる。心の潤いとは、まさにこれのことなのだろう。

「香坂さん、時間まだ大丈夫ですか?」
「え、ええ。もちろん」

 食事を終えて店を出たタイミングで、振り返りざまに彼に聞かれると、私は年甲斐もなく動揺してしまった。それまで紳士的だった彼の態度から、いらぬ想像と友美の「その日のうちにベッドイン」の言葉を振り払って、笑顔をつくる。

「よかったらもう一軒行きませんか、この近くに時々飲みに行くバーがあるんです」
「良いですね、ぜひ」

 彼ともう少し一緒にいられることが嬉しくて、私の顔がわかりやすく明るくなる。彼も、そんな私をみて優しく微笑んでくれた。二月の夜はまだ冷えるけれど、二人の間に暖かい空気が流れている気がして、気持ちよかった。