一晩限りで終わったら、なかったことにしてしまっていいのか。それで、アラフォーは遊ばれたなんて思ってはいけないのか。私は言葉に詰まってしまう。友美の生き方を否定したくはないけれど、私はそこまでドライになれそうにない。

「別に樹里に私と同じことしろなんて言わないけどさ、いないの?ちょっと良いなって思う人」
「いない、ことはない」

 私は通っているジムでよく会う彼のことを思い浮かべる。

「とりあえず食事にでも誘ってみて、良いお友達になれば良いのよ。二、三人そういう人がいればそれだけで心は割と満たされるし、発展すれば儲けもの。」
「同時進行ってこと?」
「別に二股かけるわけじゃないんだから。あくまで友達なら、なんの問題もないでしょう」
「そういうものかなあ」
「そういうものよ。女にも男にも、逃げ道が必要なの」
「逃げ道かあ」

 確かにヤキモキしないで済むし、恋愛に進まなかった時も友達としての関係が続くなら悪くないような気はする。けれどそれは果たして相手のことを真剣に考えていると言えるのだろうか。

「樹里は難しく考えすぎよ。そうね、試しにその気になる人と食事に行けたら、そのあとバーにでも連れてってもらいなさいよ。それでワインクーラーでも頼んだら、彼の気持ちがわかるかもよ」
「ワインクーラー?なんで」
「イイ女の嗜み」
「聞いたことないんだけど」
「はじめて言った」
「わかった、適当なのね」
「さあねえ、ああ、シェリー酒をストレートでもいいわよ」
「話をする前につぶれるわね」
「あ、ごめん彼が帰ってきた。またね」
「はーい、またね」

 友美との通話を終えた後、私はキーボードを叩いて残りの仕事を片付けながら、ジムで会う彼のことを思い出す。今のところ会話らしい会話はそんなにない。よく行く曜日が被るから、挨拶をして、ランニングマシンでちょっとだけ話してあとはそれぞれ別のマシンへ向かう。でもそのちょっとした会話が心地いい人だと思っている。

 友美の言葉を反芻しながら、あれこれ考える。早々にベッドインはともかく、とりあえず友達になれたら、そこから広がる人間関係もあるかもしれないし、待っているだけじゃあ、アラフォーに恋が舞い込んでこないことはわかりきっている。私は力強くエンターキーを押して、肩の力を抜いた。