悩んでいる顔の彼女はやはりどこかあどけなくて、少女の雰囲気が抜けきっていない気もするけれど、庇護欲をそそる表情というか、単純にかわいかった。そんな彼女を見て、自然と笑みがこぼれてくる。

「そんなことはないですよ、でもそうですね、せっかくはじめてバーに来たわけですし、カクテルはどうですか。居酒屋とは比べ物にならないくらいおいしいですよ。」
「なるほどカクテルかー。でも何を頼めばいいかさらに悩みますね」
「カシスは好きですか?」
「はい、飲み会での定番です」
「ならカシスソーダはどうでしょう。はじめは慣れているものや、軽いお酒が良いと思いますので」
「じゃあ、それでお願いします」

 やっぱり思い切ってお願いしてよかったです。新庄さんみたいに頼れる人に出会えたのはラッキーでした。なんて嬉しそうに言われて、僕は浮足立った。頼りにされたり、喜ばれたり、こちらも嬉しくならないわけがない。前の妻と別れて数年、仕事ばかりでろくに女性と遊んでこなかったので、当然こういうシンプルな誉め言葉など久しく聞いておらず、効果は抜群だった。

 年甲斐もなくこんなに若い女の子にドキドキしてしまう自分を窘めて、僕は彼女のカシスソーダと自分のジンフィズ、それからつまみに生ハムとオリーブを注文した。きっと約束通り一杯御馳走したら解散になるだろうから、料理の注文はしないでおく。

 乾杯をしてカシスソーダを一口飲んだ彼女は、見てわかるほどに瞳を輝かせて感動していた。

「本当に、全然違う。何だろう、何が違うの?わからないけど、美味しいー」

 それを聞いたマスターが「それはよかったです」とニコニコの笑顔で答える。曰く、はじめて来店した客からの賞賛は、何にも代えがたい誇りになるのだという。

「驚くよね、僕は学生時代わりとカクテルの種類が豊富な居酒屋でドリンクを作っていて、その時もカシスソーダを作っていたのに、全然味が違うんだもの」
「不思議ですねー。あ、私も居酒屋でバイトしてましたよ。カクテルはほとんどなかったですけど」
「そっちのほうがドリンク担当は覚える内容が少なくて助かりますね」
「そう考えるとバーテンダーさんてすごすぎじゃないですか?一体何種類のお酒を覚えてるんだろう」
「どうですか?マスター」
「どのくらいでしょうねえ、カクテルの種類だけで言えば、多分三百種類くらいは頭に入っていると思います」
「すごっ」