少し酔いの回ってきた彼が、飲んでいたコペンハーゲンをテーブルに置いて、小さく零す。

「俺には本当にあいつが何考えてるかわからないよ。もうダメなのかなあ……」
「そんなことないって。一度じっくり話してみなよ」

 情けない声を出す彼の背中を、ぽんぽんと軽く叩いてあげる。いつもの弱音、いつもの愚痴、私は時に相槌を打ち、時に励まして、彼の話を聞くだけ。

 男が女友達に彼女の相談や愚痴をこぼすのは、その女友達に気がある証拠、なんてどこかで聞いたことがあるけれど、彼の場合はきっと当てはまらない。純粋に、励まして欲しいと思って私に相談しているのだ。だって最近頻度が増したとはいえ、かれこれ半年、ずっとこんな調子だから。

 こんなに悩むほど彼に愛してもらえる彼女が、私は羨ましい。私なら彼に悲しい顔をさせないのに、もっと優しくできるのに、そう思ったところで、会ったこともない相手に、私はいつも負けている。

 はじめのうちは、相談されるたびに苦しくて、愚痴を聞くたびにもしかしたらと期待もした。

 けれど彼にとって私は本当にただの相談相手で、女の意見を聞いて彼女と上手く付き合っていきたいのだと理解してからは、もういちいち動揺しない。

 こうして毎回彼からの誘いがあるたびに、特別おしゃれをするでもなく、良い下着をつけるでもなく、軽く化粧だけ直していつも通りの私で会いに行く。誘いを断れないことだけが、唯一にして最大の欠点だ。

「話し合うって言っても、忙しいの一点張りで会う約束もままならないよ
「仕事?」
「うーん、今まで一度も残業続きなんて聞いたことない」