「今度東京にいる中学のメンツで飲みに行くから、中澤もこいよ」

 中学の同級生で唯一今でも連絡先を知っている高田からこんな電話がかかってきたのは、二週間前のことだった。中学の同級生なんて、卒業以来会っていない。もう十五年になるだろうか。今更会って何を話せばいいかわからないし、誰が来るのかは知らないが特に会いたいやつもいない。高田に関しては時々こうして連絡をよこしてくれてたまに飲みに行くので、わざわざ同窓会で会う必要はない。

 断りを入れようとした俺に、高田が付け加えた。

「今回はなんと、本田が来る予定だ」
「本田が?」

 思わず俺は大きな声を出してしまった。

 本田萌は、中学時代俺に告白してきた女の子だ。と言っても関わりは二年の時のクラスが同じで、何度か勉強を教えたことがあった程度。顔はまあまあ可愛い部類なのかもしれないけれど、それ以外が全く女らしくなくて、可愛いと思えなかった。だから卒業式の日に告白された時も特に思うところもなく、すっぱり振った。

 そんな俺に本田を印象付けたのは高校生になってからだった。といってもそれは噂話で、噂を仕入れてきたのは同じ高校に進学した高田。「本田が高校でモテているらしい」という、本田と同じ高校に進学した同級生から回り回ってやってきた話だった。モテてるの?あれが?みたいに失礼なことを思った記憶がある。

 二十歳の成人式の時、俺は東北の大学に通っていて地元には帰らなかった。住民票は地元のままだったけれど、新幹線と在来線を乗り継いで二時間半は、当時の俺には面倒な距離だった。それに、別に成人式に行かないからって、どうということはないと思っていた。

 ただ、式に出席した高田から電話がかかってきて、やれバスケ部の誰が結婚していただの、サッカー部だったあいつの頭皮が既にやばいだのというどうでもいい同級生の近況の中で、一言気になっている話があった。

「本田萌が、超可愛い」

 高田は可愛くなった本田相手に緊張してろくに話もできなかったなどと言って、かなり上機嫌だ。現金なやつだな、と笑うと「お前だって会えば絶対ビックリするし、言葉が出ないぞ」なんて言われた。