「勿論俺だって、結婚してから芽生える情があるとは思ってるよ。莉奈が恋愛に興味ないことも、十分わかってるつもりだ。それなのにこんな提案するのはずるいってわかってる。でもできれば俺は、結婚してからでも、莉奈と愛し合いたいよ。真剣に、そう考えてこの提案をしてる」

 ん?今なんて言った?

「え、待って。ツッコミどころが多すぎて。まず私、恋愛に興味ないなんて言った?」
「だって、大学卒業してからずっと、彼氏いないだろう?何か莉奈の中で決定的な事があって、もう恋愛しないって結論に至ったのかなって」
「なってないなってない。私は青木が真由ちゃんのことを忘れられるまで待とうと思ってたらいつのまにか……あ」
「真由?なんで今真由?」
「違うの?」
「真由のことは、四年のあの日莉奈が一緒に泣いてくれたおかげで結構すんなり立ち直れたよ。勿論しばらくは少なからず引きずってたけど。……え、というか莉奈、俺のこと好きなの?」
「青木は私のこと好きなの?」
「……好きだよ」
「私だって好きだよ!何これ、もっと早く言ってよ!」
「俺のせいかよ。だって莉奈好きなやつなんて出来ないって」
「青木以外無理なんだもん、恋愛に興味ないって言ったの青木じゃん、それなのに本人に言えないじゃん」
「それ何年前の話だよ。もう何年も莉奈のことが好きだよ」
「私は十年前から……ずっと好きだよ」

 言いながら私は、どんどん頭が回らなくなってきた、やたら度数の高いデプス・ボムが今頃効いてきたみたいだ。それで先程逡巡させたこの十年の想いを、洗いざらい青木に話してしまった。全部話し終わった後で、はあーっと長い息を吐き出し、手で顔を覆った。消えたい、嘘、まだ消えられない。

「莉奈」
「何」
「とりあえず、結婚を前提としたお付き合いを始めませんか」
「……はい」
「愛し合って、結婚しよう」
「はい……」
「莉奈」
「何?」
「こっち向いて」

 顔を上げると、見たことがないくらい嬉しそうな青木の顔があった。