「ピアス?私、穴あいてないよ?」
「え、そうなんですか?てっきりあいてると思ってた」

 俺が彼女の誕生日プレゼントに渡したピアスは、有名ハイブランドのものでもなければ、雑貨屋に売っているプチプラのものでもない、フランクにプレゼントできる、ちょうどいい値段のピアス。金属アレルギーがないか事前にさりげなく確認して、いつも彼女がつけている物と比較してもバランスが悪くないものを選んだつもりだ。それがまさか付けられないものを送っていたなんて。ガックリと項垂れる俺を見て「そんなに落ち込まないで」と慰められてしまった。

「ありがとう、このデザインすごく好きだから、イヤリングに変えてつけても良い?」

 彼女がゆったりと笑うと、それだけで、俺は満たされた気持ちになる。付けてもらえるならばもちろんそれで構わないと答えると、彼女は鏡を取り出して耳に当てて確認していた。思った通り、可愛い。彼女にとてもよく似合いそうだ。

 俺はプレゼントを渡し終えた事で緊張の糸が切れたのか、先程気合を入れるために一気飲みしたアプリコットフィズの酔いが回って来た気がした。最近彼女に合わせて色々なカクテルを飲むようになったけれど、ものによっては本当にジュースみたいで飲みすぎる。それでついつい、いらないことまで言ってしまう。

「俺と会う時だけでも、付けて欲しいです」

 いつもつけて欲しいと言えないところが、自信のなさを表しているんだろうし、独占欲丸出しの、みっともない主張だと自分でも思う。こういうところが子供っぽいのだろう。特に普段は自信過剰で、明るくポジティブな男であるところを彼女に見せているだけに、自信のなさにはどうか気づかないでいてほしい。

「鹿島くんに会うときだけで良いの?」
「あ、いや。出来ればいつでも」
「ふふ。いっそ私もピアス開けようかしら」

 ピアスをもう一度直接の眺めて、彼女が呟く。

「祥子さんが、俺のためにピアスを?」
「鹿島くんのためじゃありません。今まであけるタイミングがなかったのよ。こういう機会があれば、よしやるぞって思えるでしょう」

 ピアスのほうがイヤリングよりもデザインが豊富だしね、と付け足して、彼女は体裁を整える。あくまでも俺のためじゃないですよ、という意思表示をしてみせるところが、いじらしくて可愛い。