金曜日の夜、仕事を早く終わらせてここに急いで来るようになったのはいつからだったろうか。毎週二時間程度、彼とここで一週間の出来事、主に仕事であったり、休みの日に出かけた先で見たことだったり、愚痴から思ったことまでなんでも話す。それに対して門真さんはちょっとしたアドバイスとか、雑学とかを披露する。雑学は私に茶化されて、それをさらに冗談で返されて、何の話をしていたかもう忘れてしまって二人で笑う。門真さんは私のことを心配してくれたり甘やかしてくれたり、それに私はほんのり元気をもらう、そう言う関係。

 口説く時も、あくまでラフに。

 言葉の端々に、態度に、好きだ可愛い愛してる、そう言う感情を織り交ぜてくるけれど、私がきっぱり断ればスッと引いてくれる。だから私は安心して一緒にいられるし、遠慮なく優しくしてもらって、甘えさせてもらって、心を満たしてもらって気持ちよく酔う。不倫関係なんて、はじめから狙っていない。

 門真さんもそれがわかっているから、遠慮なく私を口説く。

「依ちゃん、俺本気だよ?本気で依ちゃんの事が好きだよ」

 先程までふざけていたのに、急に男らしくなって、真剣な顔でこちらを見てくるから、たまらずドキッとする。ゆったりした低い声が私の心をノックして、身体の奥に響いてくる。けれど。

「そんな顔したって、騙されないわよ」
「騙してないよ」
「既婚者は、ちょっとねえ」
「そこは目を瞑ってもらって」
「絶対イヤ」
「ケチだなあ」
「ケチなもんですか。結婚してる門真さんが悪いんだから」
「そう言われても、もう結婚して七年ですし」
「もう少し早く出会えていればってレベルじゃないわねえ」
「俺が離婚したら考えてくれるの?」
「それはどうだろう」
「そんなあ」

 門真さんはカウンターに額を埋めてしょんぼりとうなだれる。門真さんの正確な年齢は知らないけれど、多分私より五、六歳は上だろう大人の男性が子供のように拗ねている姿はなんだか可愛らしい。けれど私がたとえ「離婚したら付き合う」と言ったところで、離婚なんてしないくせにと思うとやはり腹立たしい。

「あーあ、早く良い男の人と出会って、門真さんと過ごす週末が終わらないかしら」

 本人を前にして、こんなことを言ってみる。