途端、ガバッと君が顔をあげた拍子にテーブルも揺れる。おっと危ないとグラスとテーブルを支えた時、今日初めて君と目が合った。

「なんで、何もないなんていうの。なんで……そんなに冷めてるの」

 目に涙をいっぱいに溜めた君に、なぜだか僕が責められる。

「なんでって、君が他に好きな人ができたというのに、僕に何ができるっていうんだ」
「引き留めてくれないのね……」
「もし僕が引き留めた程度で変わる気持ちなら、最初から心変わりなんてするものじゃないよ」

 僕のこの言葉は彼女の逆鱗に触れたらしく、いきなり思い切り平手打ちを食らわせると「やっぱりあなたは私のことなんて好きじゃないのね……別れれば良いんでしょう、別れれば!さようなら!」と言うだけ言って店を出て行ってしまった。

 他に好きな人ができたのは君なのに、何故君が泣くのだろうか。 

 なぜ僕が君のことを好きではないなどと思ったのだろうか、僕のことを好きじゃなくなったのは君ではないか。

 痛む頬を撫でながら、僕は彼女が置いていったデニッシュ・メアリーをひと口飲む。レモンの爽やかな香りとトマトの風味のお酒なのはわかるけれど、ブラッディ・メアリーと何が違うのか僕にはさっぱりわからない。けれど君はいつもこちらを好んで飲んでいた。僕の心を探るように、じいっとこちらを見ていた君の視線を思い出す。

 もしかして、君は僕の気持ちを確かめたかったのだろうか、僕は、何かを間違えたのだろうか。ふとそんな考えが頭をよぎったけれど、いやいや、と思い返してかぶりを振った。

 結局君は他に好きな男ができて、僕に別れを突きつけた、そういうことだ。