「清香~、まっすぐ歩いて。あと目開けて」

 ニコラシカの後は慣れ親しんだヒューガルデンを飲んでいた彼女だけれど、やはりいつもより早く潰れてしまい、俺たちはバーを出てらふらふらと歩きだした。終電まではあと少し、けれど、この様子ではとても彼女は家までたどり着けそうにない。俺は大きくため息をついて、結局駅ではなくホテルに足を向けた。

「ふふ、なぜか結局いつも通り」
「笑ってんじゃないよ。清香お前本当にいい加減にしなさいよ」
「でもそう言いつつカズさんは付き合ってくれるんでしょう~」

 彼女の身体を支えて歩きながら悪態をつく俺とは対照的に、彼女はとても楽しそうで、ろれつの回らない口で嬉しそうに呟く。

 付き合う、ねえ。

「付き合ってるって言うなら、キスぐらいしてやろうか」
「いいんじゃない?してみる?」
「…今はしない」
「…いつするのよ」
「明日の朝、清香が素面になったら」

 トロンとした酔った目が、少し驚いたようにこちらを見つめてくる。

「なんだよ、文句ある?」
「ない…です」

 せっかくもらったチャンスは活かしてやろうじゃないか。それでどうせなら、彼女が酒のノリと勢いだった昨日のことは忘れようなんて言い出さないように、明日の朝まで待ってやる。

 何よりここまで来てキスなどしようものなら、俺の理性崩壊は待ったなしだ。酔った勢いで、なんて事はしたくない。

「…せっかくこっちは覚悟きめたっていうのに」

 彼女が小声でつぶやく。なるほど酔った頭でも多少の緊張はあるらしい。

「その覚悟、明日まで取っておいてね」
「……はあーい」

 心なしか彼女が不満気ではあるものの、これも俺のやさしさだと思って、どうか今夜は大人しく寝てほしい。