ホテルに行っても何も起きないくらいお互いのこと異性として見てないじゃない、と彼女は笑うけれど、それは大抵こうやって愚痴大会を繰り広げたのちふらふらになるまで酔っ払った挙句、終電を無くした彼女を放っておけないから仕方なくホテルまで連れていくのであって、そうこうしているうちに俺の終電も無くなるから彼女を介抱しつつ一緒に泊まっているだけで、そして何も起きないのは俺の鋼の理性のおかげなんだと言うことなど、彼女は知りもしない。

 二十代も後半になってその警戒心のなさは正直どうかと思うし絶対に俺以外の男の前でそんなことをしないでほしいと切に願っている。

「何よ?」

 俺の視線に気づいた彼女が訝しそうにこちらを見てくる。そんな顔さえ可愛く見える俺は大分末期だと思う。

「清香の警戒心のなさはどこから来るの?そんなこと言ってるとそのうち痛い目見るよ?」
「カズさん以外の男の人は流石に警戒するし、私だって毎回毎回酔い潰れてるわけじゃないですー」
「俺と一緒の時ももう少ししっかりしてくれないか」
「仕方ないじゃん安心するんだもん」

 安心するのか、じゃあ仕方ないか。いや仕方なくない、無防備ダメ絶対。

「カズさんはさ、なんで彼女作らないの?」

 彼女に聞かれて、俺は一瞬固まる。いつも自分の恋愛話ばかり聞かせるくせに、珍しいこともあるものだ。

 俺は食べていただし巻き卵をゴクンと音を立てて飲み込みながら、どう答えたらいいものか逡巡して、最終的に鼻で笑いながら答えた。

「今は清香のお世話で忙しいもので」
「ちょっと、人のせいにしないでよ」
「俺に彼女ができたら清香とこうやってだらだら飲むのもできなくなるわけだけれど」
「それは寂しすぎる」
「デショ。だから俺の話は良いの」

 彼女が欲しくないわけではないけれど、その相手にまずは恋愛対象としてみてもらうことから始めなければならない。ところが友達歴が長くなりすぎて、どう踏み出したらいいかわからないのが現状だ。

「いっそのこと、本当にカズさんと付き合ってみるか」
「はい?」

 清香さん、今なんて言いました?