「この前の彼がね、さっき訪ねてきたんだよ」
────目を丸くした。
「…え?」
"この前の彼"
それは十中八九眞紘のことだ。だって私の親が顔を知っている男っていうのは眞紘一人だけだからだ。
そう、眞紘だけだから────。
ドクリと胸が鳴った。
なんで来たの?…あんな事言った後で、なんで…。
そして眞紘の顔をまた思い出す。胸が締め付けられる。泣きたくて…でも、泣いたって無駄なんでしょ?って思って口を閉じる。
笑顔でいてくれればそれで十分って…何も分かってない。私も、もっと気持ちを露わにして縋ることができれば良かったのに。
「莉央が、自分の事情に巻き込まれて拉致されたって」
「…っ」
「すんでのところで間に合ったけど、頬や首を斬られてしまったって」
「…っ」
「幸い、かすられる程度で血はもう止まっていて、莉央はこんなの平気だって笑っていたけれど……確かに傷つけてしまった。怖い思いをさせてしまってすいませんって」
「…そんなっ」
「昨日、あんな大口を叩いたのに…偉そうなことだって言ったのは俺なのに、ちゃんと守りきれなくてすいませんでしたって」

