眞紘は、私の方に視線を向けてから頬と首に出来た斬りつけ痕を視界に入れると、一度だけ悲しそうな顔をしてから──何かを決めたように、真っ直ぐ矢神に視線を向けなおしていた。




「ほら」

「…っ」

「ほら」

「…っ」

「ほら!!」




ゴフッ…、ゴフッ…、と何度も何度も眞紘の顔面が殴られるのを私はとてもじゃないけれど見ていられなかった。

垂れ流すように涙をアスファルトへと落とし、凄惨な音を聞きたくはなくて耳を塞ぎたく思ったりもした。



私に力があれば。私が弱い女でなければ。

……様々な思いはどれもこれも遅すぎるものだった。



何度も何度も、眞紘が殴られている音がする。興奮気味な矢神の笑い声とともに、悲痛な──音が。





「……ほらっ!!!」

「……っ、く、」

「ほ、らっ!!!」

「…くくく………」




────だけど、何かが妙だった。


骨と骨がぶつかる音の合間に、笑い声らしきものが聞こえてくるからだ。

見れば、やはり笑っているのは眞紘だった。彼は、血が出ている口元を手の甲で抑えながら可笑しげに笑ってる。




「………あ?」

「…んだよ。そんなもん?」

「……お前、」

「…いいから、やれば?痛くも痒くもないから」