近づく鋭利なナイフ。
怪しさを含めて光沢をつくるそれ。
やけに冷たく身体を凍りつけてくるアスファルト。
鈍い痛みをつくる頬の斬り裂き痕。
地面に流れる赤い血液。
覆い被さる猟奇的で、無情な男。
────────私は、動けなかった。
──────ガンッ……………!!!!!
その時だ。尋常ではないほどに勢い良く、扉がぶち破られたのは。
差し込む光。入り込む外の空気。
鋭く重く、海の底よりも深い場所から沸き立っているかのような…獰猛で凍てつく殺気。
晄にも全然劣らない。
そこらのゴロツキは一瞬で震え上がるほどの、オーラ。
膝を抑えて前屈みになるその姿は、切羽詰まって走ってきたのか呼吸がかなり乱れていた。
そして、射抜くように、どんな鋭利なナイフよりも鋭く差し込むような深い瞳が向けられる。
…部屋全体へ、…男へ、…そして私の頬とすぐ下に広がっている血溜まりへと向けられた時には…
────────それは大きく、見開かれて。
「…にした……」
「えー?」
────泣きたくないのに、生理的に込み上げてくるのは………涙。

