「うわお、泣きそー」
「……ふざけんっな、」
「莉央ちゃん綺麗だし、そそられなくもないよー?」
「…アンタなんかにっ…アイツの何がっ……」
何が分かるっていうの。
ただ、胸が痛くなった。
ただ、どうしようもなく苦しくなった。
あんなに優しい心を持った人間だったから、きっと組の同盟の話だって受け入れてくれたに違いないのに。
一人で見知らぬ場所に放り込まれるのは、心もとなかったはずなのに、…深入りをしてはいけないと皆にに対して距離を置き、それはきっと寂しかったはずなのに。
眞紘はそれを顔に出さないから。
だから──私は無性に儚く感じた。
「取り消してよっ………」
私の顔の目の前で、ジュッと鈍い音を立てながら短くなった煙草が揉み消された。
嫌な匂いを鼻に感じながら、私はポソリ、と震えた声を吐き出す。
「…えー?」
けれど、男はしゃがみ込んだまま頬杖をつく。
腐りかけたアスファルトに囲まれただけの四角の空間で、腐ったような男は小馬鹿にしたような笑いを浮かべるだけだった。
「取り消してっ……」
「何がー?」
「………取り消し、てっ……」
「……」
「さっきの………!!!!!」
「……」
微笑を浮かべる男は何も口を開かない。
それが何処か、狂気すら感じ取れるほどに。
「取り消し──────」
刹那、"赤"が舞った。
ピュッ…という音とともに、そこらにこびり付いているのと同様の鉄のような独特の匂いが鼻を掠める。
ジンワリとした痛みが走ったのは、その後だった。

