目を見開いたまま、私は少しも口を開くことができなかったのは…あまりに予想もしていないことだったからだ。
………眞紘?なんで?なんで眞紘?
煙草を咥え、息を吸う度に赤くなるその先端をただ固まりながら見ている私へ、男は変わらずにクスリとした笑みを向けるだけ。
斜め上を向いて煙を剥ぎ出せば、濁った煙は透明な空気に混ざるようにして消えていった。
「莉央ちゃんは、眞紘に対する人質」
「……何で、」
「まー普通は宇喜多の方だって思うよね」
「……質問にっ、」
「西側の宇喜多は絶対的に安定してるし、流石にリスクが絶大すぎて手を出す気にはなれないなー」
「…だからっ」
「って言っても?こっちも同じようなもんがあるけど。そんな宇喜多と、面白みもないちんけな"仲良し"同盟なんかを結んで安定を保とうとしてる…東No. 1のヤクザってのが」
「……っ…!!!!」
────まさか、と思った。
ポロ、ポロ…と、吸殻が直ぐそこに落ちてくる。
闇の中。静かな殺気。血の匂い。響くのは悲惨な悲鳴。
人が死にそうになる瞬間だっていうのにも関わらず、何も感じずに見下ろすことができる冷たく寂しい心。
誰にも心を許すことなく、ただ一人任務をやらを無言で全うしているアイツの後ろ姿が───脳裏に過ぎった。

