拉致られたと言っても十分なものだろう。
理由は知らないけれど、どう転んでも不味い状態に変わりはない。けれど、私の脳内は冷静だった。
ただの四角形の部屋と言っても過言ではない箱の中を、その場に倒れたまま見回して、
「お目覚め?」
────…一点に、目を向けた。
ガチャリと、扉を開けて入ってきたのは見知らぬ男。
ニタリと笑った胡散臭い笑みは、私の気分を害するほかに何の意味も持たない。
ポタ、ポタ、とこの部屋の何処からか水が漏れている音が聞こえてくる。それが余韻を残して木霊する中で、静かな足音が徐々に近寄り、私に迫った。
「…何が目的」
「おっと、鋭いね」
「いいから答えて」
「中々強気なお嬢さんだ」
男は、不気味な雰囲気を纏いながら、ゆるりと口角を上げて私の前にしゃがみ込んでくる。
目尻を下がっているその顔は、穏やかそうであり狂気に満ち溢れているようでもあった。
「ほら。この前も、僕の手下に会っただろう?」

