「いや。ごめん。馬鹿にしてないから」
「…してんでしょ」
「してない」
「……」
「それに、俺も綺麗だと思う」
奴は──もう一度、仮初めの夜空を見上げながらそう呟いていた。
怠そうで、何考えてんのかもよく分かんないような男は、一つ一つに割りかしちゃんと受け答えて返事をしてくれるからさらにミステリアス。
何か、他の小うるさい男とは違うような気もしなくはなかったんだと思う。
「これさ、店で偶然見かけて何と無く買ったやつなの」
「へえ」
「んで、何と無くつけてみた」
「……そう」
「そしたら案外悪くねーから、もう十日くらい付けっ放しにしてる」
「十日も…?馬鹿?」
「馬鹿かも」
また、クスリと喉を鳴らし、控えめで仄かな笑みを浮かべる男はゆっくりと此方に視線を向けてくる。
ソファーの上で胡座をかいて、その上に頬杖をつくハチミツ色の男。この部屋は、甘い甘い…何処か誘引的な雰囲気を帯びているようにも思えて。
「ねえ、名前────教えてよ」
これが、玖珂 眞紘という男だった。

