「知らない。てか、アンタのことも知らない」
「田中太郎」
「……田中太郎?アンタの名前?」
「嘘」
「はぁ?」
「本当」
「……」
「ドッチデショウ」
……ブチ切れようかと思った。
抑揚もなく、さも何とも思っていないようにしれっと馬鹿にしてくるコイツは、また欠伸を一つ落としていて。
「……じゃあ、純粋に綺麗だと思って入ったわけだ?」
気だるげに歩き出したと思ったら、ソファーに座って星が輝く天井を見上げはじめる。
私もつられて見上げた。
何が何座なのかとかの知識も無い私は、柄にもなくガキが天体観測をしているような気分を味わったような気もした。……新しいものを、見つけたような。
「驚いたの」
「驚いた?」
「星ってこんな綺麗だった?って」
「…ふうん」
「都会になってゆく中で星は見えなくなったし、夜空を見上げる人間なんて、もう殆どいなくなっちゃったけど……でも、そこには確かにあるんだよなって思った」
「うん。あるね」
男は、意味不明なことを言いはじめているわたしの話を、シカトなんてことをせずに聞いてくれる。
身体に星の光がはりついたような姿。不思議な雰囲気を持っている男だとは、思った。
「確かに輝いてるんだなって……」
「そうだね」
「何にも負けない偉大さを感じた」
「…何それ」
するとクスリ、と男が笑う。
眉を怪訝に動かす私は、あからさまな苛つきを覚えて思わず口を閉じた。

