BLADE BEAST

「嬉しい。もう来ないのかもって思ったから」

「…そんなこと、ないよ」




目を向ければ、デニムパンツを履いた長い足を此方に寄せてくる晄がいた。

耳についているいくつかのピアスを光らせながら、困ったようにそして安心したような瞳を私に落としてくる。

────フゼアの香りがした。





「…今日、暑いよね」

「うん…」

「珍しく髪あげてる。かわい」

「そう、かな」

「うん。莉央はチョーかわいい。…やっぱり、莉央が一番なんだなって再確認した」

「……」




晄はごく自然な流れで私の手を取った。

そしてそのまま歩きだす彼につられ、私もカツカツと足を進めながら何処かへ誘われていったんだけど、またもやうまい返事ができなかった。




チクリ、とした。

何に対してのチクリ、なのかは分からない。




ただ────一瞬だけあの気だるげで掴み所のない顔が頭をよぎった。