その時。背後から久しぶりに聞いたようなそれが耳に入ってきた。

ゆっくり振り返ればやっぱり思った通りの人物がいて、彼は少し眉を下げて困ったように笑っていた。




「…晄」




そこにはちょっとウェーブのかかった黒髪、モデル体型、甘くもあり綺麗でもある顔立ちの…まさしく晄本人が立っていて。

私はあ…と、言葉を失った。

いや、どういう顔をすべきなのかが分からなかったんだ。





晄にとってはたいしたことじゃないジャンルに分けられるのかもしれないけれど、あの夜に私は晄のことを突っぱねてそのまま放置してしまったから。

でも、あの判断が間違ってるとは思わない。

ただ……、ただ。あの後、私の肌に熱っぽく触れてきた眞紘に対してなんらかの感情を持ってしまったってことに変わりはない。

そっちのほうが、この居づらさを感じさせている。




晄のこと、嫌いじゃないから。

だから一緒にいたし、付き合った。

晄にとってはその他大勢の中の一人に過ぎなかったかもしれない。私一人がどんなことをしていようがあまり関係はないのかもしれない。

結局はそんなもんで、私もそれを理解してる。

……だけど、楽しかったことも"幸せ"なんだって思ってたことも、私にとっては本当のことに変わりはないから。





だから、私は……。