お母様はそう言いながら、視線を落とす。
そんな事、考えてくれていたんだ……。
「たくさんの仕事で、色々なところを飛び回っていたけれど……何も予定のない、その少しの時間でも貴方の元へ帰ってもっと関わるべきだった。」
「……それは仕方のない事です。仕事で大変なのは、昔からよく知っています。だから……気にしないでください」
私はそう言ったけれど、お母様はそう言う私を見てまだ気にしているようだった。
「……私は、ずっと恐れていたの。あの屋敷に戻ることで、主人の事を思い出してしまいそうで……怖かった。思い出してしまったら、きっと私は泣いてしまうから」
……お母様はまだ、引きずっていたんだ。でも、何となくそんな感じはしていたのには気づいていた。
「だけど、もう今日でおしまいね。私は少し変わろうと思うわ」
そう言って、私の方を向いた。
「幸音。今日の演奏、本当はとても良かったと思ったわ。ピアノの音が貴方の感情で溢れていて、会えなかった頃の貴方を知れたようで、とても嬉しかったわ」
「お母様……」
「そして、前よりちゃんとピアノも上手くなってた。自分のピアノはどういうものなのかもきちんと理解していて、私の想像を良い意味で貴方は裏切ってくれたわ」
そう言いながら、お母様は少し笑って私の頭を撫でた。
「……これからも、ピアノ頑張りなさいよ」
そう言っていた時、お母様は前のように笑っていた。
私は、今回観客の人に感動させる事が目的だった。
けれど、それを行った事でお母様までの心まで私のピアノを届ける事が出来ていたんだ。
……そう知って、私は思わず涙が溢れてくる。
私のピアノは、ちゃんと皆に届いたんだ。
皆の心に、私のピアノが響いたんだ。

