少しして、お母様が口を開いた。
「……幸音、顔を上げてちょうだい」
その言葉に、私は恐る恐る顔を上げてお母様の方を見る。
すると、私が思っていた表情はしておらず、何故か少しだけ嬉しそうに笑っていた。
「……私がいない間に、そんなに大人になっていたのね、幸音」
「……えっ?」
思いがけないお母様の言葉に、私は少しびっくりしてしまった。
お母様は少し横を向いて、口を開いた。
「……ねぇ、幸音。私がどうしてこのコンクールに出てと言ったのか、その理由が貴方には分かるかしら」
お母様の問いに、私は少し考え込んだ。
「……ごめんなさい、分かりません」
そう答えると、お母様は少し困ったように私の方を見た。
「……このコンクールで、貴方がどれだけ成長しているのか、見極めたかったからよ」
その言葉に、私は少し目を見開いた。
「一位じゃなきゃ駄目って言ったのは、貴方が追いつめられた時、どこまで這い上がってこれるのか知りたかったの。……そしたら、幸音は今日私の言った事を全く無視して、裏切るんだもの。ものすごく驚いてしまったわ」
「……ごめんなさい」
私が縮こまって、そう謝るとお母様はふっと笑った。
「別に、今は貴方を責めている訳じゃないのよ?ただ……さっき貴方から理由を聞いて、学生の貴方にもうそんな事が分かっていて演奏したのだと知って、感心したの」
あのお母様が、私に感心してくれるなんて……。私は思わず、お母様をじっと見つめた。
「でも、そんな貴方を見て少し後悔したわ。……私は、もっと幸音の傍にいてあげるべきだったって」

