「……どういう事か、説明してちょうだい」
「はい」
私は一度深呼吸をして、またお母様の方を見た。
「私は、二年前コンクールで大失敗をしてしまいました。観客の方達から、ほとんど拍手をされないような、そんな演奏を私はしてしまったのです。でも、何故か結果は一位だったのです」
「……それで?」
冷たくそう言うお母様に、少しビクッとしてしまったけれど、私はまたゆっくりと話し始めた。
「私はその事を、ずっと引きずっていました。ピアニストにとって、観客から拍手がもらえないのはすごく辛い事です。だから私は、一度コンクールに出る事を辞めてみました」
私は一度下を向き、また前へと視線を戻す。
「そして、気づいたことがありました。確かに、ピアノのコンクールは結果が大事なのは昔からよく分かっています。だけど、それだけじゃダメなんだって思ったのです」
「……」
黙って聞いてくれているお母様の顔を見て、私は両手をギュッと握り締めた。
「ピアノは本来、観客の方達の心に届くような、周りの人達に感動を与えるような演奏をする事が大事です。なのに、私はピアノを何年もやっていくうちに、そんな大事な事をとっくに忘れていたのです」
私はふぅーっと息を吐く。
「だから私は、今日自由に弾いたのです。楽譜も一切無視して、観客の方達に感動を与える事だけを考えて弾きました!……それが、過去を振り切るための大事な事だったから……」
私は下を向いてそう言った。
……視線を上にあげるのが、怖い。
お母様に、何言われるのか分からなくて私はずっと視線を下げたままにした。

