「……じゃあ、俺は行くから」
「分かった」
私がそう言ったのを聞くと、葵は私に優しい表情を向けた。
そして、葵は夏向と輝星君の方を向く。
「そこのお前ら。後は幸音のこと、よろしく頼む」
二人にそう言い残して、葵はスタスタと行ってしまった。
それを見届けていると、夏向と輝星君が私の隣に立ってくれる。
「あいつ、幸音が泣いてんのにずっと傍にいてあげればいいのにさ」
輝星君は、そう言って葵の背中を睨みつける。……輝星君は、何故葵にだけはそんなに突っかかっているのだろうか。
「……まぁ、結城は元々そういう奴ってことなんじゃねぇの?」
夏向は、輝星君とは対照的に冷静にそう呟いた。
……性格は正反対なはずなのに、いつの間にか仲良くなってるのが、少し面白かった。
「……二人共、もう大丈夫だよ。さっきはちょっと、感動しただけだから」
私がそう言うと、夏向と輝星君は私の方を見た。
私の涙が止まっていることに気づいて、二人はほっとしたような表情になる。
「……後は、結果待ちだね」
輝星君がそう言うと、私は視線を少し下へと落とした。
「……うん、そうだね」
私は、今回のコンクールで弾いた事に対して、何の後悔もない。
……だけど、一位かどうかはまた別な話であって、安心出来る訳じゃない。
今回は、自分の弾きたいように弾いてしまったから。
下手したら、順位にも入らない場合が考えられる。
……そうなったらきっと、お母様から厳しいお叱りを受けるだろう。
でも今日の私はもう、そんな事はどうでも良かった。
……入らなかった場合は、もう覚悟の上でこっぴどく叱られる事にしよう。
私にとっては、今日この演奏をする事が目的だったのだから。
私はそう思いながら、結果発表まで夏向と輝星君と待っていた。

