「久しぶりだな、幸音。俺がピアノを頑張っている間、お前は何やってたんだよ。やっぱりそいつらとサボって遊んでたのか?」



「そんな訳ないじゃない。私もちゃんとピアノを弾いてた。コンクールには出てなかったけれど……」




「へぇ、そーなんだ」



葵は明らかに私を馬鹿にしたように言う。



棒読み感が伝わってくる。




私は唇を噛み締めて、葵をキッと見る。





「まぁ、そんなに怒るなって幸音。……で、こいつらは同じ学校の生徒か?」




「そうだよ」




「へぇ……」



葵は、夏向と輝星君の方を見て彼らの前に立つ。



「お前達は、幸音の応援か?珍しいな」



「……結城、葵」



輝星君が珍しく、機嫌が悪そうに言った。



「……幸音、結城と仲良いのか?」




「俺達はそんな関係じゃないさ。だって幸音は……」



夏向が私に言った問いに対して、葵が答えながら私の方へ歩み寄り、私の右肩に手を置いて少し口角を上げる。




「俺の婚約者だから」




夏向と輝星君は、すごく驚いた表情をしていた。





「ちょっと葵、手離して」



「悪い悪い」




葵はそう言って、私からパッと手を離す。



「だから、お前ら……こいつに手出したら、許さないからな」





夏向と輝星君を、葵は冷たい目で睨みつけた。



「夏向、輝星君。葵は元からこういう人だから、気にしなくていいよ」



「相変わらず、俺には冷たいなぁ幸音。でも……」




葵はそう言って、私を壁際の方へと寄らせて、私の頭の横に手を置いた。




「舞台の上では、俺と幸音はライバルだ。一位は、俺がかっさらってやる」



私を見下ろして、少し冷たい目を向けてくる。葵の紺色の髪がさらりと揺れる。