「何でもないよ」
私は一言そう言って、夏向の口元から手を離した。
「……幸音」
「まだ、知られたくないの」
夏向に小さな声でそう言うと、彼はふっと笑った。
「分かったよ。まだ言わない」
「おーい!皆席につけ!HR始めるぞー!」
先生教室に入ってきて、私は自分の席に座る。
朝から疲れたな……。
さっき、夏向が私の事言いそうになって凄く焦った。
でもいつか、私の事言えるようになれたらいいな。
私は晴れている空を見ながら、そう思った。
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掃除の時間になり、私は箒を持って教室の床をはく。……テストとピアノのコンクールまであと少しだ。
テストは良いけれど、やっぱりコンクールに出るっていうことに少し抵抗感がある。最後に出場したのは二年前。
久しぶりだということもあるけれど、一番はステージの上に立つ事を、まだ少し恐れているからだ。
「如月さーん!このゴミ、持っていってもらってもいいかな?」
「私達、吹奏楽部で今から練習しに行かなきゃいけなくて……」
「自分達でやらなきゃいけないことは分かってるんだけど、うちの部厳しくて……。今度お礼するから!お願いっ!」
クラスの女子三人が私にすごく必死そうに頼んできた。……確か、白野麻衣さんと木原未来さん、東堂結月さんだ。
クラスの人にこんな風に話しかけてもらえるのは初めてだ。
「分かった。それに、そんな事でお礼なんて返さなくても大丈夫だよ」
「本当!?やったー!」
「ありがとー、如月さん!助かるよー!」
「やっぱり。皆が色々変な噂流してるだけで、如月さんすっごく良い人じゃん!優しい!でも、このご恩は絶対返すから!」
三人は、じゃーね!と言って走って行ってしまった。
……元気で、明るい人達だった。

