「……幸音がこういう曲弾くの珍しいな。いつもは明るい曲しか弾かないのに」
「よく見てるね。……ねぇ、小林君は今の演奏、どう思った?」
「凄かった……けど、まだ本気を出してないと思った。なのに幸音の悲しみも、幸音がピアノを弾くのが好きなのも、伝わってきて感動した」
「よく本気出してないって分かったね」
「毎回、幸音が出るコンクールは全部聞いてきたからな。でもさ、ピアノで人の心を動かせるってやっぱり幸音はすごいと思う。幸音のピアノが、俺は一番好きだ」
「……ありがとう」
今、そういう風に言ってくれるのは多分小林君くらいだろう。私の事をまだよく思ってない人達は、きっと大勢いるだろうから。
「小林君……私ね、来月のコンクールに出場することになったの」
そう言った瞬間、小林君が目を見開いた。
「曲は、今私が弾いた曲。その時に、私の全てをピアノに込めようと思ってる。だからその時まで、この気持ちは取っておきたいから……さっきは少し手を抜いた」
私はそう言って、小林君の前に立つ。
「だから……良かったら観にきてほしい。私の悲しみ、全部ぶつけるから」
私の言葉に、今までびっくりしていた小林君だったけれど、私の表情を見てふっと笑った。
「……もちろん、絶対行くに決まってる。頑張れよ、俺応援してるから」
「ありがとう」
もう逃げない。誰かの応援があるって分かっただけで、もう全部どうでも良くなってきた。
その応援だけで、私は頑張れる。だから私は、少しずつ前に進むんだ。
だってそれはきっと、私が過去を振り切るための、大事な事だから。

