日差しが強くなり、汗ばむ季節となった今日この頃。





私はいつもと変わらず教室に入り、窓側の一番後ろの席に座る。




ここが私の今の席であり、私の大好きな席でもある。





……はぁ、暑い、溶けそう。





気が抜けて机に自分の顔をふせる。




……夏なんて大嫌いだ。





暑くて、眩しくて何もいいことなんてありはしない。






この明るい季節は、地味な私にとって場違いだ。





……でも、この学校はピアニストとしての私でいなくて良いから、そう考えるととても居心地のいい場所だ。






ここにいる人達は何も知らないのだから。私の過去に何があったかなんて。






私はもう、前の学校のように息苦しい生活をしたくない。だから私は、この学校では地味に過ごして、自分からは人に関わらないようにすると決めたのだ。



それから私は、いつも伸ばしていたラベンダー色の髪を三つ編みに縛って、伊達メガネをかけて登校している。




そして、この学校に来て一年ちょっとが経った。今はもう、高校二年生だ。






いっそのこと空気になれたら……一番楽なのにな。




そんな私と比べると、皆は毎日楽しそうで、幸せそうで、キラキラしてて……。




私はそんな世界に踏み込めない。






「おーい、皆席につけー!今日は転校生を紹介する」






皆がはしゃぐ中、静かにコツコツと足音が教室に響き渡る。






その音は、何故か他の人とは違う、私の知らない音だった。





「小林夏向(こばやしかなた)です。……よろしく」





彼の黒髪がさらりと揺れる。





その人は綺麗な顔立ちをしており、クールな雰囲気を漂わせていた。





彼の容姿を見て、女子が感嘆の声をあげる。




……この人も、皆と同じ。




前を見ていられずに、下を向く。





あの人も、愛される側の人間だ。





少し気になったけど、でも……。







私には到底近寄れない存在だ。