「どうした?怖い夢でも見たか?」
 「あ………起きていたの?」
 「今起きたよ。君が、何だか泣いているようだったから」


 顔を見せていないのに、何故わかったのだろうか。
 朱栞は涙がたまった瞳は彼には見えていないだろうと、わざと笑って誤魔化した。

 「……泣いてないよ。大丈夫」
 「俺はまだ寝てるから」
 「え……」
 「寝てるから、目を瞑っている。だから、こっちを向いて抱きしめさせて」
 「何を言って……」
 「君は頑張っているよ。異世界から突然知らない世界に来てるのに、いつも笑顔だ。もし、夜に1人泣いていたのだとしたら、今日からは俺がいる。目を瞑っているから、だから一人で泣かないでくれ」


 ほら。
 彼はこんなにも優しい。
 別の意味で涙がこぼれてしまう。
 
 ゆっくりと体を回され、朱栞は抵抗する事もなく彼の力に身を任せ、寝る時のようにまた彼の胸に顔をうずめた。
 その瞬間から目から涙が溢れ、体が震えた。


 「ごめんなさい」

 
 本当の事が言えず、ごめんなさい。そんな意味で言葉を伝えた意味を、もちろん彼はわかるはずがない。更に罪悪感が増すだけだった。


 「もう少しで夜が明ける。その短い時間でさえ、俺が君を抱きしめていたいだけだよ」


 抱きしめながら頭を撫でてくれる彼の手の優しさが、今の朱栞にとって苦しい。
 それなのに、それから逃れたいとは思えないのだった。