「そして、私はこの者と婚約をする事を決めた。この賢く、優しく、美しいシュリに私は心奪われたのだ。どうか、この婚約を皆にも認めてもらいたい。そして、祝福を私とシュリに送ってほしいのだ」


 ラファエルが高らかと宣言する。
 すると、驚きの声が上がった。きっと、婚約の発表はあるとは思っていたが、まさか異世界人だとは思っていなかったのだろう。
 けれど、すぐにその驚きは違うものへと変わった。


 「わぁ・・・すごい。綺麗だわ」


 人々は「婚約おめでとうございます」という言葉と共に、妖精たちが一斉に聖堂内を飛び回り魔力の光りを降らせたのだ。晴れの日の雪のように、キラキラとした粉のようなものがラファエルと朱栞を包んだのだ。


 「これは、お祝い事で行われる妖精の舞でね。人々の契約妖精たちが魔力を光の粒にして降らせ、主役をお祝いするんだ」
 「とても綺麗です。夢の世界のようですね……」
 「君は夢の世界じゃなく、シャレブレという異世界に来ているんだ。そこは必ずやシュリを幸せにする場所だ。皆も祝福している。俺と共に幸せに過ごそう」



 ラファエルの本当の目的はわからない。
 けれど、きっと彼ならば童話のお姫様のように結果的は幸せにしてくれるのではないか。
 王子様と一緒にいれば、幸せになれるのではないか、そう思ってしまう。

 それなのに、穂純の事が頭によぎるのだ。
 こんなにも優しくしてくれ、みんなからも祝福をされている。
 元の世界への未練もたくさんあるが、この世界ならではの幸せや楽しさも少しずつ見つけられている。ラファエルの気持ちを受け入れて、彼と過ごしてしまえれば、彼の温かさと優しさに甘え、抱きしめられればきっと幸せなのだろう。

 けれど、素直にそれが出来ないのだ。


 「はい。………ラファエル」


 そう返事をしつつも、朱栞に彼の後ろを見てしまう。
 この聖堂に、穂純は来ていないか、と思ってしまうのだった。