「アレイ。シュリはここに来たばかりなんだ。魔法を使いこなせないのは当たり前だろう。それに、さっきも話したけど、彼女は俺の婚約者だ。君が認めないというならば、今後を考えなければいけない」


 その強い言葉に、アレイは顔が強張る。
 ラファエルはあえて言葉にはしなかったが、アレイに「契約の解除もありえる」そう言おうとしていたのだろう。アレイは悲しげな顔を見せたが、それは一瞬ですぐに先程よりきつめの視線を今度はラファエルに向けた。


 「何よっ!こんな女、ラファエルを悲しませることばっかりしてるくせにっ!」
 「アレイっ!!やめるんだっ!!」
 「………それは………」
 

 突然の大声。

 ラファエルはアレイの言葉を遮るように、彼女の名前を呼んだ。
 アレイの小さな体は、ビクッと揺れた。


 「ラファエルのばかっ!勝手に契約でも婚約でもすればいいんだわっ!」


 小さな舌を出して、顔をしかめると、アレイはアッという間に部屋から飛んで出て行ってしまった。シュリがまだ慣れない飛行で彼女を追いかけようとしたが、それをラファエルが首を横に振って止めた。


 「ごめん。アレイには、僕の方からしっかり話をしておくから。大丈夫だよ」
 「ラファエル様。彼女が話していた、悲しませる事って何でしょうか?私は、やはりあなたに何かご迷惑をかけているのですね?」


 ラファエルが彼女の話を止めたかったのは明白だ。アレイは何を言おうとしていたのか。それを、彼に聞こうとしたが、ラファエルは眉を下げて困った顔をしただけだった。


 「大丈夫。そんな事はないよ。俺はシュリが隣に居てくれるだけでいいんだ。本当に、それだけでいいって思ってるよ」


 その言葉はきっと本当なのだろう。
 優しさが伝わってくる穏やかなな口調と、視線は朱栞を安らげてくれるのだ。

 けれど、彼の話したことが全てではないのだろう。
 それを感じ取ることも容易だった。


 ラファエルが隠していること。
 それは、きっと朱栞が想像している以上の事を抱えているのではないか。そう思わざる終えなかった。
 ラファエルが話すつもりがない事をそれ以上追求も出来ず、朱栞は「わかり、ました」と返事をして曖昧に笑みを変えるだけだった。