「それはよかったです。それで、今回のご用件は?」
「あら。もう少しお話しましょう」
「私も忙しい立場なのですよ。ご理解ください」
「やましい事があるから早く帰って欲しい、の間違えではなくて?」
「……まさか。何もありませんよ」
お互いに笑顔で話しているが、部屋の中はピリついている。リンネイがここに来ると、ラファエルの契約妖精たちが部屋から出て行ってしまうのはこのせいであった。
ニコニコと彼女の言葉を否定したラファエルを見て、リンネイは鋭い視線を送ったが、すぐに大きくため息をついた。
「国王からの指令書です。例の新しい隠れ場が見つかったので、対応を願いたいとの事です」
「わかりました。すぐに対処します」
リンネイは、小さくしたのただろう指令書を魔法でラファエルの元へ飛ばした。巻かれた紙は魔力が練り込まれた紐で縛られていた。送り手が指定された人物でなければ読むことが出来ない仕組みになっている。それをラファエルはすぐに解き、指令の内容を一読した。そして、頭に入れるとすぐにその紙を燃やした。
「………この大きな魔力、隠しているおつもりですか、ラファエル王子?好き勝手な事はなさらないでくださいね」
いつの間にか、リンネイはラファエルの耳元まで飛んできており、そう囁いた。
内容が違えばドキリとしるほど艶のある甘い声だったが、ラファエルにとっては全く逆の感情を感じるものだった。
「………何の事でしょうか?」
「その嘘くさい笑顔は嫌いじゃないから今日は許してあげますが、報告はします。では、無事指令を遂行出来る事を願っています」
そういうと、リンネンはラファエルの頬に触れて、ウインクをした後に、颯爽と窓から飛び去ってしまった。
いつも彼女の滞在時間は短い。ラファエルと話をしたいと言いつつも、指令を伝えたらすぐに本国へと帰っていく。国王に従順なのだ。
「面倒な事にならないといいけれど。俺がやり遂げる事は1つだけだけどな」
ラファエルは自分に言い聞かせるようにそう一人言葉を落としながら服を脱ぎ、闇夜のように真っ黒な服に手を伸ばしたのだった。