物語の途中。彼女の声が止まったと思ったら、突然そんな事をラファエルに聞いてきた。
 その表情は切なげで、思いつめた表情をしていた。
 ラファエルの両親が異世界から持ってくる物語は、カーネリアに合わせてかお姫様が主人公のものが多かった。最近、その話を読み終えると、何かを考えている様子があったのはこのことか、とラファエルはやっと理解した。


 「俺と結婚するのは姫だろうな……」
 「………そうなんだ」
 「いや、違うな。俺と結婚する女の人がお姫様になってもらうんだ」
 「そう、なの?じゃあ、お姫様じゃなくて、どんな女の人でもいい?」
 「いいさ。もちろん、ハーフフェアリでも」
 「ラファエル、それって……」


 こんな海辺で言うことでもなかったし、もっと彼女が大人になってから伝えようと思っていた。けれど、カーネリアを不安にさせたままではいけないと、思わず自分の本音が出てしまった。ラファエルは女の子にこんな恥ずかしい事を伝えた事があるはずもない。ラファエルは、彼女から視線を逸らしてしまう。と、カーネリアは、ふわりと飛んでラファエルの顔を見る。そして、ニッコリと笑った。彼女の顔も真っ赤で、瞳はうっすらとうるんでいる。


 「私の顔、今のラファエルみたいになってるんだろうね。私、ラファエルのお姫様になるの、楽しみにしてる。待ってるだけじゃなくて、立派なお姫様になるように、勉強もするから」
 「あぁ。俺も楽しみにしている」


 顔を真っ赤にした2人は、異世界の約束の方法だという、お互いの小指をからめる儀式を真似る。
 幼い頃の約束なんて、無意味なのかもしれない。
 けれど、ラファエルはその約束を必ず叶えられる、そう思いそのために立派な王子になる事を心の中で誓ったのだった。