「あーあ。売り物に傷がついたんじゃないの?」
 「うるさい、ラン。あとで適当に魔法で治しておけ」
 「えー、私がやるのー?」
 「俺は余計な魔力は使いたくないからな。このまま売り飛ばす予定だったが、やめた。俺、妖精は抱いたことないんだよな。ハーフフェアリなんて、今までいなかったんだろ?なら、1度味見してから売り出す事にした」
 「っ!!」
 「えー、それって値打ち下がるんじゃないの?」
 「どうせ、あの王子に食われてるんだからいいだろう」
 「まぁ、それもそうか。私はそういうの見る趣味ないからパスっ」


 ランと呼ばれた妖精は手を振った後、パチンと光りを発して消えてしまう。
 そして、穂純は懐から鍵を取り出すと、檻の錠を開けて中に入ってくる。


 「や、やめて」
 「俺の事、好きだったんだろう?大人しくしてたから、昔みたいに可愛がってやるよ」
 「こないで、やめて」
 「どうせ王子様はこれない。俺の契約妖精の魔法は、魔力を感知出来なくなる魔法。この新しい隠れ家全体に施しているから、俺の魔力もおまえの魔力も誰も気づかないんだよ」
 「そんな……」
 「さて、おしゃべりはおしまいだ」


 朱栞の足に穂純が手を落とす。その瞬間、全身に鳥肌が立った。
 あんなに好きだった穂純。彼から求められたら、なんて幸せなのだろう、とはしたないが夢に見た事だってあった。恋人同士になれたら、手を繋いで、抱きしめあって、キスをして、それ以上だって。そんな風に想像したことだってあった。

 それなのに、今は涙が溢れてくる。
 そして、呼ぶ名前は穂純ではない。


 「ラファエル」


 体も動かない。魔法も使えない。
 気を失いそうな朱栞は何とかこらえながら、ここにはいない婚約者の名前を呼んだ。
 それを聞いて、穂純はこの上なく楽しいと言った様子で、くくくっと笑い、朱栞の肌の上で手を動かし、反応を楽しんでいた。

 こんな時間は早く終わってほしい。
 朱栞は、強く目を閉じて堪える事しか出来なかった。