汚いものを見るように蔑んだ視線で朱栞を見ながらそう言い捨てた穂純の表情は、朱栞が見た事がないものだった。それなのに、彼の表情はまるでそれが普段通りかのように、しっくりきていた。朱栞に見せていた顔は裏の顔だったのだ、と今になってやっとわかったのだ。
 ずっと大好きで、片思いをし続けて見てきたはずなのに、本当の彼は知らなかったのだ。


 「元の世界でもおまえの知らない所で、こんな事をしてたよ。寄ってくる女はとりあえず、付き合って味見をして、あとは飽きたら捨てる。珍しい女も好きだったよ。外人とかハーフとか、趣味が変わってる女もね。うるさくなったら、薬でも飲ませればおとなしくなるしな。酒と女と金は、男のたしなみだ。大分楽しんだけど。まー……飽きてくるわな。だから、この異世界の誘いがあったときは、本当に幸運だと思ったな。そして、記憶がなくなるかもしれない、という大博打にも勝った時は、やっぱり俺はもってる男だと思ったよ」
 「どうして、私には近づかなかったんですか?」
 「それはそうだろう?仕事で利用した方がいいと思ったからだよ。まぁ、もう少し元の世界にいたら、そろそろお前を好きだと口説いて、いろんな事を教えて込んで俺の虜にした所を、ずたずたにして捨てるのも面白いとは思ってたけどな。それは、心残りで残念だったな」
 「……」


 目の前の男は本当に穂純なのだろうか。

 シャレブレ国に来て、性格が変わってしまったのではないか。そう思ってしまうほどの衝撃と悲しみが朱栞を襲った。この男を長い間愛し続けていたというのだろうか。
 学生の時に優しくしてくれたのも、慰めて、一緒に勉強をしてくれたのも、全てが偽りだったのだろうか。彼の中で自分と一緒に居る事が楽しいと思ってくれてはいなかったのだろうか。
 そんな小さな望みを自分に問いかけるが、どんなに考えても、穂純は役立つから傍に置いていたのだ、とわかってしまう。少しでもそんな思い出があるのならば、朱栞をこんな檻にいれるはずがないのだから。