朱栞は、焼けた床に手を置いた。
 そこはひんやりとしている。暖かいこの土地ではなかなか感じられない寒さだ。ここは陽が届かない、夜のような部屋だなと、朱栞は思った。この空き家に何かヒントはないだろうか。朱栞は、部屋の中をゆっくりと移動した。すると、別の部屋で気になるものが置き捨ててあった。それは、空の小さなな牢屋だった。鳥や小動物を入れるほど小ぶりであったが、柵と柵の間が広い。これではすぐに逃げてしまうのではないか。不思議に思い、朱栞はその牢屋に手を置こうとした。が、その直前で何か嫌な空気感を察知して、触れるのを止めた。その牢屋に触れる瞬間に体から力が抜けるような感覚になったのだ。まるで、その柵に魔力を吸われてしまいそうな雰囲気だった。


 「何、これは……」


 朱栞はその物を怪訝な表情で見つめ、ゆっくりと後ずさりした。
 その時だった。不意に背後に気配を感じた。魔力は全く感じなかったのに、何か動くものを視界の端にとらえたのだ。


 朱栞が「誰っ!?」と、薄暗い部屋の奥を振り返る。そこには、先程朱栞が居た部屋があった。戦闘のあった、焼けた匂いがまだ生々しく残る部屋。その部屋へと続く扉が開き誰かが出てきたのだ。妖精の密売をしている人間だとしたら、ハーフフェアリである自分にも危険が及ぶ可能性がある。朱栞は咄嗟に魔法を溜めながら後ろを向いた。が、その魔法は無残にも消えてしまう。


 「朱栞か?」