「異世界での人魚姫はこんな感じでしたか?違うところがあったら、教えて欲しいのです」
 「違うところなんてないわ!すごいわ、ホープ。本当に人魚姫の絵本を見ているみたいだわ」


 言葉の通り、ホープの描いた絵はとても素晴らしかった。次のページは、人魚姫が荒波の中、王子を助けるシーンだった。初めて2人が出会う場面。緊迫した表情が、伝わってきてハラハラする。他のページでも、人魚姫が人間の姿になったり、人魚姫と王子がお互いに惹かれあったり、人魚姫は王子を殺せずに海に飛び込んだり……1つ1つの絵がとても大切に描かれていたいたのだ。


 「よかったです!本当に感動した物語だったから描いてみたくて、お母さんに怒られるぐらいずっと描いてたんだ。でも、シュリ様のお話をお母さんに教えたら、とても感動してたんです。そして、僕の絵もとても褒めてくれたんです。だから、シュリ様にもそれを伝えたかったんです」
 「………ホープ」
 「本当に素敵な異世界のお話を教えてくれてありがとうございました。また、時間があったら僕に教えてください。また、絵を描いてみたいです」


 満面の笑みでそう語るホープの姿を見て、朱栞は目の奥が熱くなった。

 自分が書き上げた作品ではないのだから、ここまで感動するのはおかしいのかもしれない。けれど、どうしても嬉しくなってしまうのだ。自分の好きな物語たちを知りたいと思ってくれる人がいる。自分がやろうと思っていたことを喜んでくれる人がいる。
 それは、元の仕事でも同じだった。

 やはり、異世界の物語を伝えていきたい。
 朱栞の意思をこれで強く決まっていった。