ハーフフェアリとして、ラファエルと契約を結んだ時は彼の性格がわからなかったし、どうして朱栞を必要としているのかも不明だった。自分の魔力が巨大だと知った時、それが間違った所で使われるのが怖かった。魔法を知らないからこそ、未知の力が怖かったのだ。
 けれど、彼は悪い人ではないと知っていた。何かを必死に追っていて、それが朱栞の探していた人だとわかった時、彼に委ねればよかった。
 今となってはそう思う。

 けれど、そこまで考えが及ばなかった。完全に自分のせいで、彼をこんな目にあわせてしまったのだ。

 ため息も出ない。
 自分が情けなくなる。
 そこで、ハッとする。彼が怪我を負ったのは何故か。ラファエルは穂純を必ず見つけると言ってくれた。そして、その後にこの事件だ。


 もしかして。
 そんな思いが頭をよぎった。


 そんな風に考えてしまうと、もう止まらない。早く彼に会って話を聞きたい。けれど、彼は怪我をして今はゆっくり体を休めているのだ。無理に起こすことは出来ない。
 そうなれば、彼の隣にいつも一緒にいるリトやアレイならば。夜中だとわかっていても、居てもたってもいられない。朱栞は怒られたり呆れられるのを承知で、部屋をこっそりと出た。
 見回りの時間なのか、朱栞の部屋の前には守衛の者は誰もいなかった。こんな時間に出歩いてしまったら不審に思われる可能性があったので都合がよかった。朱栞は靴音が響くのを恐れて、裸足で廊下を歩いていた。

 と、妙な事に気付いた。
 静かすぎるのだ。城の中は夜であっても守衛の足音や小さな声、メイドたちの仕事をする際の音が細やかだが聞こえていた。ラファエルと共に寝る前は、その音を聞くことで「一人ではない」と安心できる事も多かった。
 それなのに、今は物音ひとつしない。それが、不思議であり不気味だった。