自分は1人の男の人だけを愛し、片思いのまま人生が終わる。
 そう本気で思っていた。

 それなのに、今は自分の「好き」の気持ちがわからない。
 2人の男性の狭間で、ゆらゆらと振り子のように気持ちが揺れている。

 今、穂純に会ったら、好きな気持ちが溢れてくるとも思う。
 けれど、ラファエルのあの純粋で明るい笑みと、一心に愛してくれる気持ち。それも、とても嬉しいと思うし、彼と共に生きていきたいとも思う。


 「恋愛の悩みは慣れてないよ。誰かに相談したいけど。そんな人いないし………」



 朱栞の近い存在と言えば、メイナかもしれないが、朱栞とラファエルは婚約者なのだから他の男性の存在を話すのはまずい。しかもラファエルは王子だ。朱栞が婚約をしているのに、他の男性に現を抜かしていたら問題だ。
 アレイはラファエルにぞっこんであるし、今は彼と一緒にどこかに行ってしまっている。

 妖精の姿の朱栞は、執筆に集中出来ずに、部屋の中をうようよと飛び回り、そして(魔法で小さくした)タイプライターの前に戻る。そんな事を繰り返して1日を過ごしていた。



 その夜。
 朱栞は寝れなかった。
 原因はわかっている。隣にラファエルが居ないからだ。そんな事は時々あった。それなのに、今日は昼と同じように胸騒ぎも感じてしまい、寂しさと焦りが朱栞を襲った。何度もメイナを呼び「ラファエルはまだ?」と聞いてしまうほどだった。その度に「ラファエル様は他の方々とも一緒にお出掛けです。大丈夫です。心配なさらず、ゆっくりお休みください」とベットに戻されてしまう。

 大きなベットで一人で寝ると、こんなにも寒く冷たいのだろうか。
 朱栞はベットの中で自分の体を抱きしめて、目を瞑った。体を温まればきっと寝れるだろう。彼の体温ではないまやかしの温かさだとしても。きっと次に目を覚ませばラファエルは隣りで眠っているだろう。


 そう思った時だった。

 
 ドンッ