アレイはそんな冗談なのか本気なのかわからない軽口を呟きながら、魔法で傷口に向けて治療をしてくれる。だが、これは簡易的なものだ。完全に傷口を治癒させるものではない。その間、先程の男、セクーナの事を考える。
 彼は妖精と契約しているようだった。けれど、彼と話した時に妖精の魔力を全く感じなかった。となると、その妖精の特徴が「魔力を感じさせない」というものなのかもしれない。もしそうだとすると厄介だ。


 「そうなると、追跡も出来ない」


 そうつぶやいたラファエルの言葉通り、リトは1人で戻ってきた。「申し訳ございません。取り逃がしました」と、深く頭を下げて謝罪した。それを、ラファエルは「気にするな。あれは仕方がないだろう」と慰めるが、彼は納得出来ていないようだった。
  

 「ラファエル様、急いで城へ戻りましょう。怪我の治療が必要です。すぐに医者を呼びます」
 「これぐらい大丈夫だ。それより、この部屋を調べなければ」
 「それが私たちが後に行います。控えている部隊もいるのですから。それに取引に行った密売組織もそろそろ城に戻ってくるかと思いますし」
 「だから大丈夫だと言っている」
 「ダメです。私はこの件に関しては譲りません。ラファエル様の事を倒してでも城へお戻しします」
 「負傷した相手を倒すなんて、お前は怖いな」
 「ラファエル様が無理をなさろうとするからです」


 リトはいつもと変わらない、怒っている表情だったが、先程からちらちらと傷がある左肩を見ている。心配してくれているからこその言動だとラファエルもわかっている。


 「わかった。城に戻る。だが、この部屋に他に捕らえられた妖精がいないか確認してからだ」
 「魔力の気配はありませんが、弱っている可能性がありますからね。わかりました」


 その後、ラファエルとリトは部屋の中を隅々まで探したが、妖精は出てこなかった。
 そして、妖精の密売取引の現場はうまく抑えらたようだが、組織の人間を半分取り逃がしたそうだ。妖精は無事だったが、成功したとは言えない結果だった。