「ん、シュリ?どうかした?」
 「あ、ごめんなさい。起こしてしまって」
 「いいんだよ。それより、眠れない?もしかして、泣いてた?」


 ラファエルが起きてしまって、隠れて目元の涙を拭ったが、彼には隠し切れなかったようだ。
 ラファエルは朱栞の顔に指を置いて、隠し切れなかった涙に触れた。


 「ごめんね。ずっと待っててくれたのに、不甲斐ない結果しか伝えられなかった。次こそは見つけるよ」
 「あの、それは違くて……」
 「ん?違う?」
 「あ、えっと……」


 穂純の事が大切だと伝えた時に、きっと彼は気づいてただろう。
 朱栞が片思いをしている相手だと。そうでなければ、朱栞は必死になっていなかっただろうし、彼も契約での婚約など結ばなかったはずだ。
 それなのに、こんなすぐにラファエルを好きになってしまった。そうと知れたら、なんて移り気も激しい女だろうと思われてしまうだろう。
 どう返事をしていいか迷ってしまうと、ラファエルは朱栞の頭の後ろを優しく押して、自分の体に朱栞を閉じ込める。とくんとくんっと彼の鼓動がよく聞こえてくる。最近はこの音を聞いて寝ているので、彼の鼓動を耳にするだけで、安心し眠くなってしまうのだ。


 「ラ、ラファエル?」
 「…怖い夢、見たの?」
 「う、うん……」
 「じゃあ、こうやってくっついて寝よう。あと手を繋げばきっといい夢を見れるよ。俺の夢はとても幸せだったよ。君と2人でラファエルの国を飛んで周る、旅をしていたんだよ」
 「それは、とっても楽しそう」
 「だろう。だから、一緒にその夢を見よう?おやすみ、シュリ」
 「うん。おやすみ……」


 この人にはきっと秘密がある。
 けれど、こんなにも穏やかで自分の好きを朱栞に惜しみなく伝えてくれる。そんな優しい男の人。好きにならないわけがないのではないか。そんな風にさえ思ってしまう。

 ゆっくりと瞼を閉じれば、すぐに夢へと誘われる。
 どんな夢を見るのか、それがわかっていると不思議と体の力が抜けていくのがわかる。
 ラファエルと一緒に温かな風を受けて、草原を飛び回りたい。鳥を追いかけて、競争などするのだろうか。妙に懐かしさを感じながら、朱栞は夢での旅に思いをはせたのだった。