2人の時間を作ってくれたのは、朱栞のためでもあるだろうが、きっとラファエルも話したい事があったのだろう。2人きりで。
そう思っていた朱栞は、次はラファエルの番だと彼に伝える。
「俺の話。うん、そうだね。やっぱり君には話しておいた方がいいだろう」
独り言のように呟いた後の彼の表情は先程の照れ顔が嘘のように真面目になっていた。
そして、離れていた体を朱栞に向き直して、まっすぐと瞳を見据えた。
朱栞の中で、ラファエルはきっと国王に婚約の挨拶に行く事が、以前の大きな魔力の発生した経緯を教えてれるのか。どちらかだろうと考えていた。
けれど、その予想はどちらも外れた。
「君の探していた男性、榊穂純について調べてきたよ」
「え………」
「落ち着いて聞いて欲しい。彼は、やはり元の世界の記憶は失っていた」
「…………」
久しぶりに聞く愛しい片想いの相手。大好きな先輩の名前。
ドキドキをするかと思った。思いが溢れて涙が出てくるのかと思っていた。
それなのに、どうだろう。今の朱栞は冷静だった。
むしろ、そんな自分を客観的に見て、焦ってしまうほどだった。
どうして、自分はこんなに落ち着いていられるのだろうか、と。
「そして、榊穂純は数年前から、行方不明だそうだ」
「そう、なんだ……」
「…大切な人なんだろう、ショックを受けるのは仕方がない事だ。俺が見つけ出すから、待ってて欲しい」
「うん」
言葉が出ないほど、悲しんでいるのだと、ラファエルは勘違いをしたのだろうか。
壊れ物を扱うかのように、優しく朱栞を抱き寄せて、そっと頭を撫でてくれる。
朱栞は、穂純ではない男性に抱きしめられながら、自分の気持ちの変化にようやく気がついたのだった。