含みのあるニヤリとした笑みを浮かべるラファエルは、意地悪な顔をしていた。
 それが悔しくて、朱栞はつい飛び切りの笑顔で「頼りにしてますよ、婚約者さん?」と言い、クスクスと笑った。
 言葉遊びのつもりで、彼もきっと笑うと思っていた。
 それなのに、ラファエルは何故か真剣な表情で朱栞を見つめ始めたのだ。何故急にそんな態度になったのか、朱栞は見当もつかない。


 「ラ、ラファエル?」
 「シュリ……」


 ラファエルの長い指がゆっくりと朱栞の頬に触れられる。そして、顔の輪郭をなぞるように彼の片手に包まれる。彼の顔を近づくと、ラファエルの瞳がうっすらとうるんでいるのがわかった。
 彼の顔がまじかに近づいてから、朱栞はやっと理解した。
 ラファエルはキスをしようとしているのではないか、と。


 キスはしないという約束だったのに。どうして、と思いつつも朱栞の体は動かない。
 その場に流されるような女なんかじゃない。そんな思いと反して、緊張からか彼の瞳から目が離せないのだ。


 「………………ごめん。約束を破るところだった」
 「ぁ、…………うん」


 先に体を動かしたのは、ラファエルだった。
 ハッとしたかと思うと、朱栞から手を離し距離をとった。
 申し訳なさそうに、ラファエルは言うが視線は離したままだった。
 彼の顔はほのかに赤くなっている。その表情を見ていると、朱栞までドキドキしてしまう。気持ちが伝染してしまうようだ。
 朱栞は恥ずかしさを隠すように、彼に質問をした。2人だけの空間で、あんな雰囲気になってからの沈黙は気恥ずかしいからだ。


 「あ、あのラファエル……。私のあなたが話したい事って何だったの?教えて欲しいわ」